キューバゆかりのクエルボ・イ・ソブリノスとシガー
ハバナゆかりの時計、〈クエルボ・イ・ソブリノス〉(CYS)の収納ボックスは、保湿機能がついた葉巻保管箱としても使えます。ご覧のようにボックス内部の、金メッキされた金具は、サビを防ぐ仕様。ケース素材はスパニッシュシダー、ボックス内部には接着剤を使わず、シガーの香気が損なわれないようになっているのです。
そんな〈クエルボ・イ・ソブリノス〉のパーティか何かの席上、クエルボ・イ・ソブリノス特製のシガーが振る舞われたことがあります。そのコロナサイズの品は自宅のシガー保管庫内でエージング、今年4月ごろにくゆらせごろを迎えました。
というわけでシガーの話。
シガーといえば5年ほど前、5人が乗った自動車内で、1人がコイーバというハバナシガー、1人がフルーツのような甘い香りがあるパイプタバコ、1人がいぶされてゴロワーズのような匂いのあるラタキアという葉がミックスされたパイプタバコを一斉に吹かし始め、その場に居合わせた私は案の定酔い、以降はパーティ会場やホテルのバー以外でシガーを手にすることはなくなっていました。
しかし今年4月、シガーも愛した先達が亡くなり、喪に服し、線香を焚く意味合いから、帝国ホテルのバーなどで、その先達と共に火を回したコイーバやモンテクリストなどのハバナシガーの合間に、クエルボ・イ・ソブリノスの葉巻をくゆらせてみました。日に、少なくとも3本くらいずつは消費してきました。
こうした経緯があって、シガーが日常のものとなり、シガーも産地やブランドではなく、ましてや金額の高低が格を決めることはないということに気付いたのです。
ニカラグアやホンジュラス、ブラジル、フィリピン産にも口に合うシガーがあって、1本7,000円とか1万数千円ほどのハバナシガーのヴィンテージもののリングをはずしてしまって、現地価格1本30円くらいのニカラグア産、フィリピン産の同サイズのシガーと混ぜるようにして保管したら……。
このようなブラインドテスト状態にすると、どれもこれもおいしいわけです。各ブランドの差は金額の高低に比例しない。〈コイーバしか吸わない〉という知人たちも同様の意見で。
キューバでも限られた地域でしか上質なシガーリーフは採れないとか、こうした蘊蓄は不要のものとなりました。何事においても、やはり、こだわり(拘泥)とか蒐集とかとは距離を置きたい。
そしてシガーの本質的なことがわかってきました。甘さ、体臭のような香気、かすかなアンモニア臭……。
これはまさに女。それも成熟した、とびっきりの女。
吸い込むという動作からは、授乳期の記憶、絶対的な安心感といったようなものも呼び起こされるのかも知れません。
そんなシガーもパイプスモーキングも、個人的には高温多湿な梅雨時がおいしい。そういえば、腐臭が漂う雨期のフィリピンの海辺で吸ったシガーは格別でした。雨の日のジュネーブでは、老舗の喫煙具店主から、〈雨の日のパイプはとてもおいしい。今日は外に出て軒先で一緒にパイプを吸おう。そして天の恵みに感謝しよう〉と呼びかけられたこともあります。その日、室内では、シガーの香気がする、スイスやフランスのシャグタバコ、バルカンソブラニーといった銘柄の香りが高く上がることはなく、煙はビロードや上質なシルク布が顔の周辺を微妙な力加減で撫で上げるように、いつまでもまとわりついて、それが心地よかった。