時計の超一流マニュファクチュール、モンブラン
モンブランの時計は、スイスにある2か所の工房で製造されています。
基本モデルは、ル・ロークル。伝統工芸品でありアートの域にあるコンプリケーション(複雑時計)はヴィルレで作られています。
かつてのモンブランは、実用性の高いリストウォッチに的を絞って提供してきました。こうしたモンブランが、複雑時計の開発・生産をスタートしたのは、2008年のことでした。スイス時計産業の聖地であるジュウ渓谷の麓にあるヴィルレを拠点とする名門時計メーカー、ミネルヴァ社(1858年創業)を、本社、工房、技術者を始めとする人的資産のすべてを傘下に収めたことが始まりです。
大自然が広がる古き良きスイスといった感のあるヴィルレの街。雪に閉ざされた今年1月、ヴィルレの工房に伺いました。約50名のスタッフのうち8割が時計師で、女性の意匠デザイナーも常駐していました。
雄大なアルプス山脈を見渡す大きな窓に向かい、熟練時計師たちが黙々と複雑時計を組み上げていくなか、まず最初の衝撃はムーブメントの心臓部であるヒゲゼンマイを製造していたこと。特殊な金属素材にオイルをかけながら、気の遠くなるような長時間をかけてゆっくりと伸ばし、素材のストレスを取るために、同じくらいの時間をかけて安定させます。完成した素材は、若い女性時計師の手により4等分にされていきます。彼女は息を詰めるようにしてピンセットだけで、この極小のゼンマイに巻き上げていきました。
そのヒゲゼンマイを今度は、一族歴代、この工房で働いていたという熟年女性時計師が、先代から譲られたという、製造から100年以上経つという工具を使いバランスを取っていくのです。彼女の祖母も同じ工房で使ったというその機械は、世紀をまたぎ休む間もなく働き続けてるため、全体的に底光りをしていました。
よく時計のマニュファクチュール(自社一貫生産)という言葉が一人歩きをしていますが、ヒゲゼンマイまで自社で作っている時計メーカーは、スイスはもとより全世界でも数社しかありません。
ほかにも印象的だった、というか感動したのが、工房内にはミネルバ社の年表、年代を追うようにして各年代の写真が飾られており、ミネルバ時代の白衣を着た技術者もいたことです。傘下に収めたモンブランが、ミネルヴァに敬意を表していることが十二分に伝わってきたわけです。
かつてクロノグラフ(ストップウォッチ付きウォッチ)までを開発して、自社製品への搭載だけでなく、超一流の他社にも供給を行ってきた名門ミネルバの伝統は現在も継承されて、新たな革新技術とともにモンブランのコンプリケーションに生かされているのです。
この工房で生み出された、人類の英知の結晶である「ミネルヴァ・キャリバー13.21」という精緻を極めたムーブメントがあります。スワンネック緩急針を備え、デザインも極美、歯車の歯、エッジも面取りされ、目に見えない部分まで丹念に研ぎ抜かれた、生まれながらにしてのミュージアムピースです。
この傑作ムーブメントを搭載したモンブラン「コレクション ヴィルレ 1858 ヴィンテージ パルソグラフ」を昨日、神戸にある高級ウォッチの正規品専門店「カミネ」で拝見しました(上の写真)。追ってその模様と、詳報をお伝えします。